『詩的神話』  第2章 〜 障壁 〜

宿世の暗い闇が王女ベノースに

襲いかかる

姿を浄化された野生ワシ、メシアは、

それと対峙する

 

 

ところが、

青銅色のオアシスに浮かび上がったのは

アガペーではなかった

 

青銅の鏡面に浮かんだ第一の陰影は

回想される宿世

 

略奪と誉れの欲に汚れた

デビエスの仮面

 

カタリスを装うエロースの罠を右手に持ち、

切り刻んだ民衆の血で彩られた灰色のマント

が揺れている

 

第二の陰影は

寂れた宮殿に横たわるベノース

デビエスの呪いが硬直を命令している

 

両足に結ばれた縄がひとりでに

ピラミッドの密室へと、いざなう

引きずられた肉体の痕跡を

無数のサソリモドキが舐める

そして死んでゆく

デビエスの呪いにふれた証として

エッセを捧げる他ないのだ

 

第三の陰影は

目覚めて涙するベノースの静寂

音のない世界が、

偽装された日常を固定していく

 

時系列化された絶望が次々と

二人を溶かしていることに、

メシアは気づいた

 

そして、

ベノースは死んだ。

 

「エッセの欠如とは、善の濃淡とは・・・」

そう叫んで

メシアはベノースの死体を

祈りの木陰に移し、

呪いの祓いを誓った。

 

 

存在するものは、ただ、

善の濃淡を照らす太陽神の炎