六百字の自慢話

はまり込んでしまった心象を元に戻すために

旅に出ることにした。瀬戸内のこの場所を選

んだのは、潮の香りがドライで、波がさざな

んでいるからだ。地平線が真っ平らな青い飛

行機雲に見える。太陽は容赦をしない。日差

しのせいで、私の皮膚のメラニン色素は、泡

立って動き始めている。凹みがすべて消えて

いく気がして、帽子を深くかぶり直した。そ

の後、気を取り直して、海に向かって帽子を

投げ捨てた。はまり込んでいた、例のヤツは

一緒に海に飲み込まれていった。摩擦のない

真白な面影が、海面の照り返しで背中を洗い

砂の城を踏みつけた。私はどっさりと立ち上

がって、足跡だけが砂浜に残されていた。悲

しみはいつまでも続かない。誰かが耳元でつ

ぶやいた。爽快な気分、少年の頃にハラワタ

がすっかり出てしまっても、笑い続けていた

あのときのまさにその爽快な気分が一瞬よみ

がえって、我に返った。後は、缶ビールを買

い込んで船に乗り込むだけだ。逃走してみた

ら、まっすぐな道が懐かしくなった。船の中

でエメラルドの砂を握っていることに気づい

てしまった。汚れた床に、うすだいだい色の

絵の具で柔らかい格子模様を飾る。その上に

ギターの弦をはりつめて、バイオレットの爪

で弾いた。音波に揺られているうちに、大聖

堂のステンドグラスが浮かび上がって神聖な

気分になった。さて古い地図を持って、あり

もしない彼の地へ行ってみよう。すごい宝物

を発見して、僕は大金持ちになるのだろう。