河原町のジュリー

その昔、

河原町を歩いていると

 

油にまみれて

お風呂にも

縁の遠い

おっさんがいた

 

当時は

ホームレスという

言葉もなかった

 

河原町のジュリー

本人は

その名で

呼ばれていることも

知らなかったにちがいない

 

でも

河原町通りを

三条から四条へと

歩く人は

固有名詞で呼んでいた

 

ちょっとした

有名人だったが

本人には

そんなことは

きっと関係のない

話だった

 

人目を気にせず

自由気ままに

生きている

河原町のジュリーが

二十歳前夜期の僕には

うらやましく思えた

 

そののち、

河原町のジュリーは

亡くなった

京都ローカルな

ラジオや新聞で

取り上げられた

 

そのことも

本人は知るよしもない

 

世捨ての自由人は

気ままに生き

気ままに生涯を終えた

のだろうか

 

とても残念に思えた

いったい彼は

どんな理由で

ホームレスになり

どんな生活をし

どんなことを

考えていたのか

 

自由とは何なのか

 

わたくしは

考えざるを得なかった

彼の生きざまは

わたくしの

一部分に影響力を

持っていた

 

世間的価値観を意図せずに

自由に生きていても

言葉を交わすことがなくても

存在しているだけで

影響力を持つ人が

世の中にはいる