身の毛がよだつ

妖怪がいるんじゃなかろうかと、山裾の林を

見ていたら、生い茂る木の葉と枝振りのコン

ビネーションが、怖くなってきた。この山の

中を歩く自分を想像しているうちに、じめじ

めした林の中をさまよっていた。蔓に巻かれ

て、金縛りに遭遇し、大きな葉っぱからペロ

リと落ちてくる水滴が、背中に当たって腰を

抜かしそうになった。枝がブルブル形を変え

て脅迫する。水はけの悪い沼地に足を取られ

て、靴が脱げる。引っ張りだそうとするが、

取り出せない。渾身の力を込めて引きずり出

すと、ヌルヌルとニシキヘビが連なって、襲

いかかる。もう片方の靴を投げつけて、裸足

のまま逃げた。怖くて、怖くて、ひたすら逃

げた。ようやく見つけた古い切り株に座り込

んだ。霧が深くなって、周りが見えなくなっ

た。身動きがとれず、足首にまとわりついた

ヒルを一つずつはがしながら、腹が減ってい

たのでカジッテミタ。山の間にも霧が立って

山霧山と重なり合って、生クリームのサンド

イッチが出来上がる。高い杉並みの木々が真

すぐにそれを突き刺していく。こんなに大き

なサンドイッチを食べるのは、一体誰だと、

想像して笑っていると、空に切れ目が出来て

突風がなだれ込んできた。斜面を流れる雨水

が蛇行して倒木を繰り返した。連なった倒木

が盛り土に穴を穿ち、水を含んだきれいな緑

が泉になった。雨が降ってこなかったら、天

と地をひっくり返してみればいいと、耳元で

ささやいたので、無理矢理うなずいてみた。