降雪を、想う

澄み切った夜空

特別な日

きっと

いらっしゃる

赤い帽子と

白いおひげ

茶色の

トナカイさんに

またがって

鈴の音を鳴らし

わたしたちの

枕元に

プレゼントを

置いていって下さる

本当は

誰なのか

そうして下さるのが

誰なのか

知っているけれど

寒い透明な空を走る

あのひとが

きっと

いらっしゃると

信じている

夢の中で

雪が降っているのを

夢見て

こころが

あたたかくなる

 

 

窓を開けて外を見ると、冷たい風が吹いています。人通りもなく、静寂の中を街路樹からこぼれ落ちるように枯れ葉がゆれ動いています。

「クリスマスイブは、いつも雪が降るはずなのに」

夜空を見上げながら、舞い落ちてくる粉雪を想像して、白いため息をゆっくりとはきだして、窓をそっと閉めました。

 

「折り紙で作った紙吹雪」、それは一番うれしかった、私の誕生日の話です。

 

紆余曲折、やっと医者になって、初めて病棟で患者さんの担当をするようになった頃、まるで初心者マークをつけたようなピカピカの白衣を身にまとい、収まりきらないくらいのメモや資料をポケットに詰め込んで、分刻みの生活をしていました。

病室を回診して、採血、検査、家族への説明、カンファレンスでの発表の準備と、昼食をとる暇もないほどのめまぐるしさで、先輩医師たちに後れをとらないよう走り回っていました。

採血のために、慣れない手つきで血管を探していると、

「先生、こっちの血管のほうが、ええよ。こっちからしてよ」と、患者さんに教えてもらっては、成長していくのでした。

 

研修医になって半年が過ぎました。白衣はいつの間にかヨレヨレにくたびれていましたが、日常診療にも慣れ、担当患者さんのことは誰よりも自分がわかっているという自信も出てきた頃です。

小児科病棟では、長期入院の子供たちが病気と向き合って、治療を続けています。体調のいい時には、プレイルームで遊んだり、院内学級で勉強したりしていました。

 

その日、いつも通りに病室へ行くと、いきなり、紙吹雪が舞い、「誕生日おめでとう」と、たくさんの子供たちが、私を驚かせてくれました。自分の誕生日などすっかり忘れていた私は、胸が熱くなりました。担当していた子供たちが私の顔に紙吹雪を投げつけて、大騒ぎです。

折り紙で作った紙吹雪を病室いっぱいに降らして、入院中の子供たちが、未熟な研修医を歓迎してくれていることに、涙が止まらなくなりました。こちらが励ましてあげないといけないのに、逆にみんなから励ましをもらいました。

正直なところ、後々、散らかった紙吹雪を片付けるのは、面倒くさかったのですが、自分の誕生日を祝ってもらって、うれしいと本気で思った初めての経験でした。

 

ほんの一瞬の出来事が、私をいっぱいの幸せで包んでくれました。

「ありがとう。みんなのおかげで今も、がんばれているんだよ」

心から、そう思っています。「医者は患者によって育てられるものだ」という言葉をかみしめながら、今日まで医療を続けてきたと実感しています。

 

いつも、クリスマスイブに雪が降ると、あのときの、折り紙で作った紙吹雪を思い出します。

だから、クリスマスイブに雪が降らないと、つい雪が降るのを待って、寝られなくなるのです。

 

メリークリスマス

メリークリスマス

雪の降る夜に

何もかもが

白く輝き

汚れた心を

洗い流して

白く透明な

気持ちが芽生える

 

メリー メリー クリスマス

新しく生まれ変わって

この世に生を受けたことに

感謝して

この雪の降る夜を見上げて

祈りを捧げる

メリークリスマス