祈り

青い光が突然僕を突き抜けた。その途端、僕は神様になったんだ。青い光はほど遠い有史の中で、人間が海から這い上がり、二足歩行で未来を追いかけるまでの景色を走馬灯のように記憶をよみがえらせてくれた。DNAに刻まれたアミノ酸配列を少しずつ解きほぐして遠い昔、魚だった頃の小さなエピソードや浜辺で海が恋しくて、夕日をみて涙した時のことを回想した。それから緑の山をめざしたんだっけ。でこぼこ道を歩いていたから、足の裏が硬くなって、靴なんて履く必要もなかったんだ。そりゃ、ずいぶん歩いたよ。おなかがすいてさ、初めて木の実を食べたときは、勇気を出したんだ。飲み込むたびに違う感じがして、今から思えばそれが味覚ってもんなんだね。太陽が沈むと真っ暗で体が冷えるから、火をおこして温めることを覚えたんだ。それからね、いろんなものを体に巻いて暖かくすることも知ったんだ。僕と同じようなふうの生き物がいたからさ、食べ物や身につけるものを交換して、仲間になったんだ。すこしずつ増えていったよ。仲間は僕の知らないことを知っていて、僕の知っていることを知らなかったんだ。何人かで集まって衣食住をするようになってね、共同生活するようになった。助け合うということにも気づいたんだ。

青い光が突然僕を突き抜けた。その途端、僕は神様になったんだ。仲間たちはね、おのおの違った色の光が突き抜けていったって話していたんだ。みんな神様なんだ。色は違うけどみんな、とにかく神様なんだ。だからね、争ったりしないよ。仲良く神様付き合いしているのさ。ときどき、海が恋しくなって、砂浜に座り込んで、夕日を眺めることがあったんだ。そんなとき、夕日がね、教えてくれるんだ。もう海には帰れない。だから、仲良く神様付き合いしてみればって。するとね、いつの間にか人間になっていた。でもね争ったりしないよ。

仲良く人間付き合いしてさ、神様は夕日にしてもらうことにしたよ。だからね、みんなで砂浜に座り込んで、夕日に手を合わせるようになったんだ。もう海に帰れないからって、涙が出ることもなくなったよ。僕たちは人間になったんだ。手を合わせて、祈るってこと覚えたからさあ。大切なのはね、祈るってことだって、わかったから。もう、さみしくないんだ。人間って、祈りの生き物だよ。争ったりしないよ。