ミラージュ
おぼろな月夜の
生ぬるい風に吹かれた雲の流れが
真っ白な虹の形に変わっていた
大きな白い、虹の階梯に似つかわしい
・
驚いた狐が空から降ってきて
一回転したかと思うと
仁王立ちでこちらを向いた
・
杖をつき
帽子を被ったその狐は
「ミラージュですね」
そう話して二足歩行のまま
歩いて去った
・
その狐は
夢語りという別名を持っていた
・
痩せこけた柳の枝が揺れている
そんな街並みの裏通りで
密やかに佇んでいると
ミラージュはいつの間にか
見えなくなっていた
・
暗闇に
ポツンとひとりきり。
悪い気はしない