実在するとは

傘をさして歩いている

冷たい雨と凍るような風の中で

マスクを介した温かい呼気が

メガネを曇らせる

曇ったメガネのせいで

夜道では周りの様子が

徐々に不透明になり

街灯やさまざまなネオンが

ハレーションを起こして

いくつもの、ぼんやりした虹を

円形に浮かび上がらせた

なぜ世界は存在しないのか、などと

マルクス・ガブリエルのような

新しい実在論を考えてみるのも

悪くないと改めて考えるほど

虹のハレーションが

わたくしの内側と周囲外界の

関係性を再認識させようとした

転げないよう、

速度を落としながら歩いているうちに

身体中が凍えてしまった

目的の場所に辿り着くと

暖房のかかった室内の温度が

わたくしのメガネを真っ白に変え

その瞬間から

世界は存在しなくなった

レンズの曇りを拭き取ると

再び世界は現れて

わたくしの日常が蘇ってきた

世界は意外にも

シンプルに存在しているのかも

しれない