蒼い鹿

草むらの中に

怯えるように

一蹄の鹿がいた

震えている

涎を垂れている

近寄っても

逃げる気力もない

「どうしたんだい」

そう尋ねてみると

浅い呼吸の中

ゆっくりと話し始めた

「お腹が空いているんだ

少し痩せ我慢していたら

もう少し我慢できたので

いつの間にか食べることを

忘れてしまったんだ

そうすると動けなくなった」

人にも

いろいろな悩みがあるものだが

鹿にも

偏屈な悩みを抱える輩が

いるものだ

ちょうど

餌になりそうなものを

持っていたので

水とそれを与えた

「生きるとは、食べること」

「忘れるな」

そう言うと

「ありがとう」と言い残して

草むらの奥の方へと

姿を消した