鏡のない世界

鏡のない世界で

私は自分自身を投影せずにいられる

自分の姿を確認せずにいられる

すると自分の内面がどうであるかに

集中できる気がする

周りの人々が私をみて

批判をしたとしても気にする必要がない

外観からの意見に耳を貸す必要がない

自分自身を自分で見ることがないのだから

 ・

浜辺に座り込んで

波の音を聞きながら

夜空を見上げていた

あまりにも月が優しかった

ほどよい月明かりに恍惚とした

その時

水面にもう一つ優しい月が揺れていた

私は思わず立ち上がって

海の中に足を運んでいた

膝下くらいまで海水に浸かったところで

夜空の月と海に浮かぶ月を見比べていた

静寂な夜空の月と波にたわむ月

ふと

現実の私と海に映し出された私に気づいた

鏡がないなら水面を見れば済む

しかし水面に映る私は本当の私ではない

夜空の月がそうではないように

鏡にも水面にも本当の私は映らない