Melting shadow

ひとけの少ない夜道に

ひとりの紳士が歩いている

黒のトレンチコートに

ネイビーのステットソン帽

左手をコートのポケットに入れ

右手にボッティカ・ヴェネタの

ブリーフケースが光っていた

紳士は歩いてゆく

背中に何かを背負っている

それは目では確認できない

思いつばさ

背負いながら寡黙に進んでゆく

後ろ姿は少しづつ小さくなって

影だけになった

暗闇がその影を溶かした

いつの間にか

自分ひとりが

薄暗い道を歩いていた

後ろを振り返っても

誰も見当たらなかった