泣きじょうご

酒は

抑えている感情の鎖を外す

薬なのだろうか

一人だけ友達に

泣きじょうごがいた

一定の量を超えると

シクシクと

一人で肩を揺らせながら

泣いている

理由は分からない

同情してみたり

からかってみたり

とにかく

何を話しかけてみても

さらに

揺れる肩の振幅が大きくなる

顔色一つ変えない酒豪だが

まるで子供のように

肩を揺らし

涙を流し

コミュニケーションがとれなくなる

こっそりグラスを取り替えて

水にしておいても

気付かない

時間が経って

さめてくると

何事もなかったかのように

普段の彼に戻っている

最初は驚いたが

みんな、

泣きじょうごに慣れて

気にしなくなる

カウンターの端で

一人で泣いている彼は

優秀な脳外科医

いろいろあるんだろうね

泣いて

憂さを晴らしているのかな

何度たずねても

泣いていた記憶がない

それが

彼にとっての救いになっている