走馬灯を見た経験
臨死体験が起こるときに
ひとは自分の過去が
走馬灯のように
駆け巡るという
実は、2度ある
1度目は
冬場に車を走らせているときに
スリップして大通りを
車体が一回転したとき
後ろから迫り来る市バスに
ぶつかりそうになりながら
ハンドル操縦不能の状態で
道端にスピンしていったときに
医学部の入学式から卒業式までの
様々な出来事が一瞬にして
頭の中を流れていった
2度目は
夏場に
フリスクを喉に詰めて
呼吸困難で息が吸えなくなって
倒れ込んだとき
病弱だった幼い日に
母親に連れられて小児科に
何度も通っていた
行き帰りのいろいろなこと
箱寿司の味
おじやの味
氷で冷やすために大きな氷の塊を
カンカンと割っていた音
そんなことが瞬く間に思い出され
急に予想外の死が訪れた時って
こんな感じなのかと客観的に
自分自身を外から見ていた
思い出の高速回転
なぜその場面だったのか
自分でもわからない
ほんのわずかの時間で
何年間にもわたる
人生の一コマが
まるで映画を見ているように
頭の中を通り過ぎていった
さいわい、まだ生きているが
本物が来たときは
どういう感じなのだろう
寿命は受け止める
覚悟はすでにできているので
不思議にジタバタしない
受け入れる覚悟があるから
怖いとも思わない
だれも
永久に生きながらえることは
できない
50後半になって
寿命を恐れない覚悟が
なぜか整っている