निर्वाण、(ニルヴァーナ)
「NIRVANA」(ニルヴァーナ)と書いてある
Tシャツを着ている青年がいた
もちろん意味を知らずに買い
意味も分からず着ていた
いやむしろ
無意識のうちに、
その真意に
引かれたのだろうか
涅槃
解脱
生死を超えた悟りの世界
究極的な実践目的
誰がデザインしたのだろう
不思議な感覚を覚えた
振り返ってみると
15-20歳まで、
人生の暗黒時代だった
中3の時、校長推薦までいただいて
某進学校特進コースに進学が内定していて
実際の入学試験でもうまくいった
自分で頑張った努力が報われようとしていた
ところが、である。
当時、校内暴力などが横行し
トイレに入ろうとすると
煙草の煙を吹きかけられ
用を足している途中に
後ろから回し蹴りされ
下校時には路地に隠れて
シンナーを吸っている生徒がいる、etc.
全くもって
非常に住み心地の悪い環境に置かれていた
そんな環境の中で、
生徒会の書記長だったから
だめなことは
注意しないといけない立場で、
普通に中学生をしていれば
見なくていいことまで、見ざるを得なかった
それは、とても、苦しかった
極めつけに、
暴力事件が自分のクラスで起こり
警察が乱入してくる
悲しい出来事が起こった
この一件で、内定は微塵に消えた
やむを得ず、
他の高校へ進学せざるをえなくなり
人生が狂い始めた
要は
自分で努力して
成果を上げようとしていることが
他人によって潰されてしまうという
理不尽な経験をしたわけだ
「努力は必ず報われる」
そう信じていたはずが、
自分以外の外的要因によって
否定されてしまったのである
この矛盾を解決せずに
先へ進めない
そういう心理状態だった
この難題を解決するために
大学入試もやめにして
高校卒業後、2年間
ほとんど誰とも口をきかず
京都府立図書館に朝から晩まで
こもって本を読む生活をしていた
自分の難題の解決策が
賢人たちの書いた本の中に
眠っているのではないか
そう考えて、
今では考えられないような
若きエネルギーでもって
一万冊以上、本を読んでしまった。
2年間、手を尽くし、思考し続けたが
手がかりは、どこにも書いていなかった。
呆然として、死のう、と考えた
絶望の淵にゆらめいて
図書館に別れを告げた
これからどうしよう
死のうか、生きていようか
とぼとぼと、舗道を歩いていた
さしかかった公園に
一人の御老人が
柴犬を連れて
ベンチに座りながら
ゆらりと煙草を吸っているのが見えた
それはまるで
何かを生産している工場の煙突から
煙が空へ舞い上がっているような情景
しかし、工場の中で
せかせかと眉間にしわを寄せて
いらいらしながら働いている
労働者を想像させることはなく、
御老人の表情は
あまりにも、あまりにも、
おだやかに見えた
その瞬間、はたと、気付いた
「これでいいじゃない、
こんなふうに生きていれば。」
自分の背負った難題は、答えがない
答えのない難題は、捨ててしまえばいい
矛盾は矛盾のままでいいじゃない
「背負うのやめた、捨ててしまおう」
次の瞬間、すーっと頭が軽くなり
身体が軽くなった
悟りって、こんな感じなんだろうかと
考えた
誰がなんといおうと
老人と犬と煙草の煙が空へ
舞い上がっていく風景が
わたくしにとっての
निर्वाण体験だった
それから、生活を変え、
とりあえず大学生になってみた
生きることを前提に
人生の目的探しが始まった
過去の呪縛から逃れ
前を向いて
歩くことが出来るようになった
今は、こう思っている。
たとえ、自分の力だけでは
どうにもならないことが
あったとしても
「努力は、いずれ、報われる」
世の理不尽さを嘆いても仕方のないこと
自分に出来ることを、真正直に、
信念を持って、ひたすらに、
やり続けるだけだ、と。
「努力は “いずれ” 報われる」
そう確信し、
遠くを見て、近くを見る
ニルヴァーナという言葉は
若かりし日に接したきり
遠ざかって、海馬の底に
眠っていた言葉だった。
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