√φ(ルート・ファイ)
お腹をすかせた子どもたちが「お父様、大腿
骨が折れました。お母様、目を合わせてお話
しましょう」と、無表情な仕草で横たわって
いる。羊水につかりながら「不眠症です」と
胎児も動いている。大声で叫びたい心が監獄
に封印され、家は迷い子の迷路となる。離散
を誘う湿った風が、哀しげなロンドを舞って
笑う。
〈可視的遺伝子が世代間伝達していく〉
二十年先の繰り返しを背負わされていること
にも気づかず、未熟なピーターパンたちは、
空を飛ぶ楽しみも忘れ去ってしまう。ティン
カーベルも行方不明のまま、いつの間にか次
世代で、習ったことを復習してしまう。
「子どもだけが、自分の命と引き替えに、守
り抜く唯一の存在」そう書き記したDNAの
ページは、剥がされたまま。
「なぜそんなことをするの」って聞いている
のに〈Φ〉と認識される。歪曲したシグナル
伝達の構築で、心はロックインされている。
では、〈Φ〉と話しかけてみると〈√Φ〉と
認識される。温かな絆の消滅を代償にして、
凍り付いた背中からあくびが聞こえてくる。
子どもたちから、メッセージが今日も届く。
「おかあちゃん、うち、きれいな、おほしさ
まに、なれるやろか」
〈√Φ〉発信源に、この透明なメッセージを
何度も、ソウシンスル。
( 詩と思想 土曜美術出版販売 2017.05. )