中学受験生の保護者控え室から

雪で埋もれてしまいそうなこんな日に、試験

など、しなければ良いのに。(2017.01.14.)

 

ばらつく雪が小枝に留まる。張り詰めた緊張

感。もう一度舞って凍り付きそうな地面に届

こうとするのか。それともたどり着いた枝の

わずかな樹液に粘着して、樹木の一部になっ

ていくのか。乾燥した風が横から吹いて蒸発

してしまわないうちに取り決めてしまおう。

 

素足の体温を奪う凍り付いた床のいたずらに

抵抗するのをやめた。冷え込んだ足先にスリ

ッパで覆われた空間ができると、空気の往来

にぬくもりを実感する。足の先から声が聞こ

える「何とまあ暖かなことであろうか」窓の

外はやはり雪かと想えば、跡形も消え、再び

降り注ぐタイミングを狙っている

 

寒く痛い冬の日常

それを楽しむことの困難は子供にはない

 

受験生の保護者の待合室になっている図書館

 

目立った話し声が聞こえないのは、普段の図

書館のまま。二十分も立てば、居眠りイビキ

大きなくしゃみ、不必要な咳払い、辺りを見

渡してばかりいる人形の目、うつむいて固ま

るウグイス、トイレへ駆け込むスリッパ、持

ち込んだパソコンを叩く音、本棚をうれしそ

うにのぞき込んで本を手に取る人は少ない。

化石のような本達が時代を振り返ることを望

んでいる。本屋ではとうてい手に入らない年

代物がホコリをかぶって凍っている。そこか

ら一冊引きずり出して、時代をさかのぼるに

は、相当の勇気と覚悟が必要なのだろうか。

 

ぼろぼろになった「詩の原理」の文庫本を見

つけて嬉しくなった。かび臭い匂いの茶色く

なった文庫本の中身は、一年前に手に入れた

匂いも色もない電子ブックで読んだ「詩の原

理」と同じだった。同じ活字が並んでいた。

しかし、かび臭さと茶色くなったページが、

同じ活字に力を与え、ページをめくるアナロ

グさに、行間を受け止める迫力が異次元化を

届けてくれる様だった。古びた文庫本の中に

真実があると、朔太郎が斜に構えて不機嫌に

笑っている。キリスト教の教典の数々が厳粛

に置かれている図書館であるのに、ここにい

る親たちは誰一人手にしようとしない。背信

などという言葉すら存在しない不器用な空間。

 

ただ自分の子が一つでも正確に漢字が書け、

一つでも速やかに計算が出来ますようにと、

誰かに祈りを捧げている保護者達のために用

意された非日常の図書館。わたくしは冷めた

目でそれを眺めながら、朔太郎と対話をしな

がら、自分の日常性を守ろうとしている。

 

窓の外はやはりもう一度、粉雪が舞い、風が

小枝をしならせている。