あのひと

あのひとが

テレビから消え

もう40年以上

時が過ぎ去った

僕は高校一年生

何もかもが

なくなってしまった

あまりにも

理不尽なことが

他に重なったせいもあるが

喪失感というものを

初めて経験した

何だったのだろうと

考える

考えても仕方がない

だけど

考えてみる

初秋の時期に

何気なく歩いている時、

不意に気づいた

キンモクセイの香り

通り過ぎるのだけれど

後で振り返ると

その季節には

なくてはならない何か

であったに違いない

古めかしい言葉で言えば

青春の一時期に

それなしでは

毎日がつまらなくなるほど

大切なひとだった

そんな風に想う

年を重ねても

何ら構わない

ひとの価値は

すがた かたち ではない