ある空想

メローなジャズピアノが

本音を呼び起こす

 

心の内側から

音符が飛び出して

相手の心の扉をノックする

 

照れくささを隠すために

まるでレコード盤のノイズを

少しだけ混ぜるように

 

ソフトなタッチで

鍵盤を弾く

 

雰囲気が醸し出す波長を

あなたが受け止める頃には

僕はクルマに乗って

右に点滅サインを

出しているだろう

 

曲がるギリギリまで

あなたは小さな投げキッスで

僕とつないだ手を

柔らかく解いていく

 

とりとめのない空想が

頭の中に休息をもたらし

暗闇の中を走り続ける

 

再びあなたと手をつなぐまで

 

クルマの中ではカーラジオから

やはりメローなジャズピアノが

流れてゆく

 

孤独な時間が過ぎてゆく

 

空想に身を任せたまま

ひとりの部屋へ帰って行く

 

現実は空想の一部なのだろうか

それとも

空想が現実の一部なのだろうか

 

暗闇の中で

川流れの速さを

確かめるすべはない

 

そんな時は

流れのない浴槽の中に

ランダムな空想を深くうずめて

身体を温める