かげむし
私の身体を黒い虫が這っている。ガラス窓を
流れる雨のしづく。街並みのネオンサインが
作り出す光の泡を操って黒い虫を作り出す。
1滴、2滴、1匹、2匹。
私の身体を黒い虫が這っている。ガラス窓に
しがみついた雨粒が、容赦をしない重力に牽
引されて、うずくまっていく。黒い虫に姿を
変えて。わたしの表層を舐め、わたしの深層
を穿つ。3滴、4滴、3匹、4匹。
私の身体を黒い虫が這っている。捕まえよう
と手を伸ばしても、追いつくことのない影法
師。ガラス窓にカーテンを引き、黒い虫を消
滅させた。ガラス窓を容赦なく叩いている。
雨粒だか、黒い虫だか。ガラス窓をノックす
る音だけが鳴り響く。目を閉じ、耳を閉じ、
波動のとどかない、いつもの場所で膝を抱え
た。
私の身体を現実が這い回る
再びカーテンを開いた。日の光と森の蒼さに
撃たれ、ようやく辿りついたのは、握り拳に
隠しておいた実体のない螺旋階段を登って行
く心象のかけらだった。
( 詩と思想 土曜美術出版販売 2016.09. 入選作 )