かもめとブレーキランプ

人間は寂しくなった時

海を見たくなるという

確かにそういう歌はある

ちょっと古いかもしれないが

かもめが飛んだ日(渡辺真知子)

砂浜(杏里)

どちらもいい歌だ

ちょうど二十歳くらいの頃

滋賀大学経済学部の学生だった

中学生のとき聞いた歌を思い出して

ふらっと彦根から長浜まで自転車を走らせて

松原海水浴場というところへよく出かけた

夏場は鳥人間コンクールの会場だが

その時以外は閑散として誰もいない

考えごとをするには適した場所だった

ひとりでぼんやり遠くを見つめていた

そのうちふと気づくことがあった

そういえばカモメがいない

潮風も感じない

当たり前だ、湖だもの。

そうか、

僕は海を眺めた気になっていたが

湖を眺めていたんだ

恥ずかしくなったが

まあ似たようなものかと考えて

そのまま遠くを眺めながら

色々なことを考えていた

彼女がいても、心の中は空っぽで

遠いところに

自分の心を探しているようだった

自分の人生は自分で考えるしかない

彼女だろうがなんだろうが

関係のないこと、と生意気にも

若さに任せて自分の人生探し青年気取り

これから僕はどうして生きていこうか

そんなことを砂浜で

膝を抱えて考えていた

愛の表現に

投げキッスをしてみたり

ブレーキランプを5回点滅させてみたり

確かにそういう歌はある

未来予想図II(ドリカム)

いい歌だ

ブレーキランプを5回点滅させて

愛を伝えるのか

車に乗って駐車場で試していた頃がある

それにしても

車に乗ってブレーキランプを点滅させるって

ぎこちないよな

しかも5回もか

思い出しては4年くらい同じことを考えて

ブレーキランプを踏んでいた

ある時、未来予想図IIを聞き返してみると

車ではなくてバイクだった

またもや、やってしまった

単純な勘違い

流石にやめることにした

なんだかスッキリした気分になって

当時車の中で聞いていた

今井美樹のPRIDEをかけて

大きな声で歌いながら運転していた

西京区の松尾神社前にある

松尾橋を走っていた時のことだ

歩道の人たちがこちらをみて笑っている

なんか気分悪いなあと思った

しかし、車の窓、

全開にして歌っていたのに気づいた

恥ずかしくて、恥ずかしくて

アクセルを踏みたかったが

信号が赤で身動きが取れなかった