合 鍵 (III)
電話が鳴った
真夜中の電話
郵便受けに
鍵を投げ入れる音を聞いた後
しばらくたった頃
「神戸に転勤になりそう」
<・・・、そう>
無理して興味のないふり
声をふりしぼって、伝えた
<元気でね>
「・・・」
そのまま電話は切れた
1995.1.17. 5:46
地球が取り返しのつかないクシャミをしてしまった
新聞の確認欄に
名前が載っていた。
ステンドグラスの破片が
胸に突き刺さって
通り抜けていった
それ以来
あの頃の日々は
心の風景から抹殺され
記憶から消えてしまった
あるきっかけで
少しずつ思い出し始めたとき
あの時、あの瞬間、
<そばにいて欲しい>
そう言えたなら
再びヒールの足音が
聞けたのではないかと
後悔と懺悔に苦しめられた
本当に、最期だった。
あと一言を声に出せない
せつなさに裏切られてしまった
今はもう
名前さえ、思い出させてくれない