ぶんご ぎゅう

憧れの、豊後牛。

 学生の時

仲間5人で

ステーキハウスの店の前。

井戸端会議。

「びっくりするほどいい匂い」

「食いてえなあ」

「金、ねえしなあ」

「パチンコ負けて

皆スッカラカンだし」

「匂いだけで、

ご飯三杯くらい食えるなあ」

「ほか弁屋でご飯だけ買ってきて、

ここで食べようか」

そんな馬鹿話をしながら

店の外の換気扇の下で

直立不動で深呼吸していた。

いつか食べたい

みんなそう思っていた

あれから何十年も過ぎた。

豊後牛のフィレステーキを食べた。

過去一さ!

なんて美味しいんだろう!!

ほとんど噛まなくてもいいくらいの

柔らかさ

喉元を通り過ぎる時、

学生時代のあの光景がよぎった。

たまらなくなって、

口に頬張ったまま、

換気扇の下で

直立不動の姿勢で

眼を閉じてみた。

あの時の気持ちが蘇ってきた。

ひょっとしたら、

あの時の方が

美味しいと

感じていたかもしれないなって

懐かしくなった