ノスタルジア

懐かしい回想

思い出深い郷愁の景色

 

カマキリだった頃

お腹の中の

ハリガネムシと

仲良く生きていた

 

用なしになった

 

♀カマキリに

頭から足の先まで

食い尽くされて

目玉だけかろうじて

吐き捨てられた

 

鈴虫だった頃

風流な羽音を

演奏したあと

 

用なしになって

 

♀鈴虫に

羽だけ

食い尽くされたが

かろうじて横たわったまま

土に帰っていった

 

アブラゼミだった頃

数年間の地下生活を

ようやく終えて

服を脱いで木に登り

騒がしく羽を震わせたあと

日が暮れると息絶えて

地面に落下した

 

また、用なしになっていた

 

♀アブラゼミには

喰われなかった

誰かが助けに来てくれて

何処かに運ばれていった

 

人間だった頃

汗水流して働いて

用なしになったら

周りから笑顔が

消えてしまった

 

役割を終えると

やはり用なしになって

一人になった

 

ところが、今度は

美しい天女姫が降りてきて

楽園に連れて行ってくれた

 

そこでは

煩わしい人間関係もなく

息苦しさも

寝苦しさも

感じないで

凍えた魂が温かくなって

幸せに暮らすことができた

 

ようやく、

用なしに

ならなくで済んだ

 

人間に生まれてきて

本当に良かった

そう感想して

生涯を全うできた

 

人間だけが

未来を

ノスタルジックに

変換できる生き物

 

きっと、そう