何物でもない自分
何物でもない自分に
雨が降り注いでいる
冷たく無機質な雨粒が
何物でもない自分を
溶かしてしまおうとする
差す傘もなく濡れたまま
そのまま土に帰っても
誰も気づかないだろう
ところどころ変色した
骨格の一部を
微生物が餌にしている
何物でもない自分は
抵抗することもなく
それを受け止め
滴落してきた杏の
甘酸っぱいオレンジ色に
圧迫されて
人間であった記憶が
少しずつ薄れてゆく
何物でもない自分には
人間社会で生きていく
居所すらないという
何物でもない自分すら
救済する慈悲心に豊かな
甘い果実があるという
ユートピアがあるという
それであれば
何物でもない自分であっても
人間として生きていくことができる
「何者」でなくてもいい自分が
生かされて生きてゆく