夜の帳が下りた後
必要なのは
人影の目立たない明かり
いつもの店でいつもの席
カウンター越しに
気づかいの必要のない
無口なマスター
都合のよい距離感で
グラスを磨いている
燻製の強い香りのカシューナッツ
さほど個性のないバーボン
手元の明かりだけ
言葉も存在しない隠れ家の片隅
グラスの氷を眺めている
店の中にいる客は二人だけ
誰もこの店を知らない
隣にいる女は
互いに考えていることが
仕草だけで分かる間柄
言葉がなくても
ぎくしゃくしない
グラスの中の
氷を眺めているだけでいい
何となくの思いつきで
コースターに即興詩
夜はそう過ごして
程よく酔ったところで
店を出る
冷たい風に
コートの襟を立てる