歌舞伎の掛け声である

「大向こう」は

素人には難しいものだ

 

「～屋！」や「～代目！」

といった声が掛かり

即興性に見えるやり取り

 

しかし

長い年月の間に

歌舞伎役者と観客の間で

作り上げられた

醍醐味なのだ

 

幼稚園の時

母に連れられて

南座に歌舞伎を見に行った

 

もちろん初めての体験だ

 

僕には歌舞伎の常連たちの

ルールを知るはずもなく

威勢よく飛び交う

「大向こう」に

いたく感動し

自分も言ってみたくなった

 

ちょうど誰も言わない

間があったので

「中村屋！」と大声で叫んだ

 

客席からは笑いが起こり

なんかとんでもないことを

やらかしてしまった感じがした

 

母が、耳元でささやいた

「あほ、中村屋と違うで。

タイミングが違うんや。」と

 

顔が真っ赤になった

 

ところが

歌舞伎役者さんの声が

一段大きくなり

場の雰囲気がなごんだ

 

なんか、いいことを

した気分になった

 

破天荒な、

子どもの

思わぬ行動は

微笑ましく

愛おしい

 

きっと

あのときの

歌舞伎役者にも

伝わったんだとおもう