実体化する性
蒸し暑さを横目に、あたりが闇に誘い込まれ
る急な様子が不安を煽る。わたくしは傘を持
ち合わせていない。鮮烈な曇天は、不要な水
分を、余るほど吸い込んで重厚感を増した。
ひと雫を繰り返し、乾いたコンクリートが少
しずつ湿りを高めて、漂う地面のにおいなど
感傷的に気づく暇もないほどに、曇天そのも
のが降り注いでいる。なにもかも押しつぶし
てしまう勢いが、得体の知れない恐怖感を紡
いでしまった。加速化する息苦しさは、マイ
クロバブルに顔を埋めて身動きができなくな
るほど、背中に大きくのしかかった。
重みに堪え兼ねた、わたくしの目線は街並に
移動せざるを得なかった。オトコどもは、眉
間に彫りを刻んで、険しく帰りを急ぐ。オン
ナどもは涼しい顔をして、エスカレーターを
水平に歩いている。
子宮の内環境が崩れ落ち、機能層からどっぷ
りはがれ落ちそうな瞬間と、重力ではじけそ
うな雨雲のエピソード。二つのシルエットが
頭の中でひとつになり、デュエットを奏でた。
輪廻を支える母性を宿す、あの自然現象。豊
満な雨雲から滴り落ちてくる激しい夕立との
酷似を空想しているうちに、わたくしの性は
差異化され、実体となって浮かび上がった。
( 詩と思想 土曜美術出版販売 2015.09. 入選 )