小雨に濡れて
小雨に濡れた唇は
真っ赤なリンゴを
かじった証し
柑橘系の雫が
口角から溢れ出す
視線は固定されて
動けなくなる
逃れることの出来ない
幻想の誘惑に捕囚され
こぼれて通り過ぎるのを
ただ眺めている
小雨に濡れた唇は
ため息を粉雪に
変えてゆく
自由自在の魔術を
うちに秘め
自然現象のすべてを
つかさどって
ありきたりな
石ころまでもが
ダイアモンドに変化する
小雨に濡れた唇が
すべてを変える
そして、
わたくしを変える
小雨に濡れた唇は
素知らぬ顔をして
遠くで微笑んでいる