小雨のラブソディ
よぎる小雨
迷惑そうに傘も差さず
黒髪のショートボブに
黒のワンピース
裾をわずかにたくし上げて
小走りに走る
髪は濡れたまま
色白の表情は固く
リップだけが赤く光っていた
名前も知らないが
傘を差し伸べたくなった
声をかけようとしたが
前を通り過ぎていった
存在を気づく余裕もなく
一点を見つめて過ぎ去った
僕は濡れてもいいが
あなたは濡れてはいけない
折りたたみの携帯傘があるので
この傘を使ってください
そう言おうとしていた
そういう言い方なら
ありがとうございますと
受け止めてくれて
小走りになる必要も
なかったのに
見知らぬひとの姿は
もうなかった
一瞬のすれ違い
ほんの3秒だけ欲しかった
3秒あれば何かが
変わっていたかもしれない
ひとこと言えなかった切なさ
僕は傘をたたんで
電柱にたてかけた
せめて
濡れたまま小走りに
予定通りの道を
進むほかなかった