思い出の小径
逢えない時間が
積み重なると
月をながめてみたくなる。
逢えない月日が
押し寄せると
海をながめてみたくなる。
逢えない日々が
満ち引きする波のように
ある感傷を奪い去って
深い海に沈ませる。
夜明けにひとり
打ち上げられた自分を
貝殻を持たない
無防備なヤドカリに
例えてみる。
砂だらけの顔に
雨でも降ってくれれば
洗い流されて
新しくなれそうなのに
太陽が輝くばかりで
思い通りには
ならないことは
ここにもあるのかと
海に入る。
砂のとれた重い心を
引きずりながら
潮風で身体を乾かし
砂浜を歩いていく。
ついには砂浜に
足跡だけを残して
日陰を作る木々の合間
コンクリートの小径に佇む。
どこからか鳥のさえずりが
聞こえてきて
ひとりではないことに気付く。
寂しさに耐えられそうもない。
そう語りかけてみる。