水をくぐる手
水をくぐる手
それを眺めていると
新しく生まれ変わる錯覚に
とらわれる
・
車から降りて
外気に触れる時
頬の筋肉が硬直するくらいの
冷たさを感じる
見上げると乾いた寒い夜空には
幾つもの星たちが
小気味よく輝いている
結びつけて星座を奇想するでもなく
幾千光年の彼方から届いた残光を
今もその星が
存在しているのだろうかと
ひとつひとつのいにしえを
想起しているうちに寒さを忘れる
・
水をくぐる手が冷たかったことも
記憶の彼方へと旅立ち
生き様を引きずりながら
前へと進んでゆく
時はいたずらに過ぎ去って
もう一つの自然の摂理に従って
土へと帰る準備が始まる
・
何人も抗うことは出来ない最期は
その人の生き様が決める
そのときにもう一度
水をくぐる手を眺めていた風景、
思い出せるだろうか