深緑の苔
平坦な山道を歩いていた
山頂へと続く
曲がりくねった道だった
左側の山肌にある
大木の根元には
綺麗な深緑のこけが生えて
湿気が多く
そのせいか額には
湿っぽい汗がにじんだ
深呼吸は森林浴の恩恵を
楽しんでいるようだった
右側はまばらに生えた木々のせいで
最初ははっきり分からなかったが
山頂に近づくにつれて
急峻な崖が
山道を削って連なっていた
頂から眺めた遠くは
雲一つない清涼な青空だったが
少し下に視線を移すと
秋の色に染まっていた
右と左の入れ替わった帰り道は
復路でありながら
初めて歩く山道のような
奇妙な感覚で
目的を見失ったわけではないのに
足早になっていた
山を下りたあと
靴の裏についた泥を見たとき
どういうわけか
大木の根元にあった
深緑のこけの匂いを
想い出した