生誕の予感
普段見慣れない街路樹の囁きに
心が揺らいで歩けなくなった
時空の歪みの突然に
動揺したわけでもなく
あのピンヒールの音が
聞こえてきたわけでもなかった
そう、ジャズ・ピアノを弾く
トライベッカブルーのドレス姿
声をかけるタイミングもなく
ピアノが奏でるミスタッチの
不協和音の囁きに似て
いつの間にか時間が止まっていた
パラレルワールドに存在する
わたくしの思考回路が変容し
コラージュ的な発想へと転換されて
心地よい漣の囁きを
五感で受け止めているようだった
タリスカーウイスキーの
ソーダー割を丁寧に作り
ペッパーをふりかけると
ピートのスモーキーな香りが
引き立ち
スカイ島のラギッドな自然が
喉越しに現れた
程なく現実の座標軸が
わたくしの新しい日常を
動かし始めた
何もかも
自分で決めた新鮮さを
信じればよいのだ
根拠のない確信が再び
わたくしの背中を叩いた