突然の雨

街角に土壁が立っていた

というより

レンガの敷き詰められた

壁なんだと思う

 

大きなお屋敷の外壁

ところどころ崩れていた

茶色が基調で黄色や青や赤が

散在していた

相当古めかしいが

センスのいいデザイン

 

木製のベンチが置いてあった

 

誰もいないので座ってみた

一人で座るには広すぎて

落ち着かなかった

 

「となり、いいですか」

 

そう言って、

返事をする間もなく

女性は横に座った

 

髪の長い女性だった

ワンピースになった

黒いロングスカートを着た

女性だった

足元から赤いピンヒールが

はみ出していた

 

「お元気にされていますか」

 

そう言われても

記憶をたどれない

 

返事に困って

遠くを見ていた

 

急に雨が降り始めて

顔を上げると

誰もいなかった

 

物語ははじまらなかった

 

記憶をたどっては

いけなかったのかもしれない

 

愛とは観念の中に生き

実在の形を持たないもの

なのかもしれない

 

立ち上がって

雨宿りの出来る場所を探した

 

愛を探した