花の駅
そこは花の駅とよばれている
古びた一両列車が
一時間に一度しか通らない
乗客もまばらで自由に車窓から
辺りの景色を眺めていられる
赤、白、青、紫、黄のコントラストと
緑の草木が透明な風に揺られて
民家は何処にも見当たらない
いつの間にか現実を忘れてしまう
誰ひとり、その駅で降りようと
考えるものがないくらい
恍惚として見とれたまま
止まった列車が動き出す
五分ほど経って振り返ってみると
季節外れの曼珠沙華と
蓮の花の浮かぶ池だけしか
記憶に残っていない
幻想のような虹の色が
脳の中で海馬を刺激している
目的地を忘れてしまい
ただ、空席の目立つ列車に
乗り続けている
たしかに、花の駅という
名前の駅だったと記憶が残る
このまま、この列車は
何処までゆくのだろう
あたりは暗闇で
南十字星だけが輝いて
見えている