「ちゅうしゃ、しない？」

 

予防接種の診察室。

入ってきて、いきなり

そう、言うこどもたちがいる

 

「・・・」

 

答えが見つからない

 

どう、答えてあげればいいか

いまだにわからない

未解決難題の一つ

 

ウソは言えないし

病気のことを説明しても

理解できる年齢ではない

 

いくらも説明を試みてきたが

子ども自身が

痛いのをがまんするに足りる

理由にはならない

 

僕が幼かった頃、

やはり、注射が大嫌いだった

 

おしりに注射針が刺さったまま

逃げ出して

とっ捕まえられたことがある

だから、

その気持ち痛いほどわかる

 

“鬼手仏心”

 

「ごめんね、」と思いながら

病気を予防するために

注射をしている

 

「ごめんね」

それしか、言えない

 

答えにならない答えしか

言えないんだ

 

だから、やっぱり、

「ごめんね」

 

注射した後でさえ

答えにならない答えしか

明かせないんだ