鈴の音

近くで鈴の音が聞こえた

小さく小刻みな鈴の音が

鼓膜を振動させた

目の前の現実から

遠く離れた記憶の片隅に

わたくしの姿はあった

時間感覚の消失した

その空間には

腐敗しかかった

なすびの輪切りの上に

一匹の鈴虫が鳴いていた

擦り合わせた羽の動きを

じっと見ているうちに

その鈴虫を捕ってきた草むらに

戻してあげようと感情が殺気だった

懐中電灯を持ち

真っ黒な闇に包まれた草むらまで戻り

羽を傷めないように鈴虫を放った

鈴虫が羽を擦り合わせて鳴く意味合いも

これで報われるだろう

目の前の現実が再び現れた

我に返った

鈴の音は聞こえなくなっていた