錆び疲れた廃屋
田園風景が途切れた河川のほとりに、けもの
みちも見当たらないほどの茂み。雑草という
雑草。錆び付いた車が無造作な廃屋に似る。
人間社会の中で役割った金属片がヒカラビ、
見晴らしの良い川縁のボタニカルガーデンに
埋葬された。雨風で剥げた表層を慈しむよう
に、野の妖精がそっと緑の服を着せた。無用
とは何なのかなどと振り向きもせず翻弄する
ヒトは、錆び疲れた金属片を忘却の小箱にし
まい込んで、雨ざらしに後片付けを任せてお
く。自然を踏みにじることも、光沢のない金
属片に近寄ろうとしないことも。禁断の木の
実に歯を立てた原罪の痛手を草木がなめる。
雑草となって、伸び尽くしていく世情が、野
の妖精の心象を、いっそ凍らせてしまった。
「廃車を覆い尽くすより、ヒトに絡み付いて
土に帰しておやり。」耳元でささやく声が、
風に乗って川に溶けた。田園によりを戻して
何もなかったかのように眼前に現れ来る、も
う一つの現象。地面すれすれに顔を持ち運ん
でみると、一万年前の土壌と同じにおいがす
る。あるいは、耕してミミズと戯れる。ある
いは、地団駄を踏んで、固まった土を遺跡と
叫ぶ。あるいは、土壌を掘り起こして、熱湯
に皮膚を焼く。廃屋に似たあれは、生ぬるい
空気に吹かれながら、ケナゲニモ、ウジ虫の
巣作るシートの上に重みがのしかかって、ア
タタメラレル日を、ココロマチニしている。