階段

小高いところにある

雑木林へと続く

石の階段があった

 

数えてみたことがある

130段

 

この長い階段を登るには

理由がある

 

幅や高さが一つ一つ違っていて

快適とはいえない石の階段

 

途中でよく

大きなナメクジに出会った

両側から木々が覆い被さって

薄気味悪い

 

階段を登り切ると墓地がある

その間を通って小川を超えると

クヌギ林がある

 

その奥に大きな、

いかにもといってよい

どっしり構えた大木が

そびえ立っている

 

その木を登ると中程に、

いかにもといってよい

樹液のたまった目的地点が

待っている

 

100mm越えの

オオクワガタの住処だ

 

捕まえたら

ばちが当たるような気がして

ただ観察する

 

ほとんど動きのない

オオクワガタを

ずっと観察する

 

大木の主の生を

ジャマしてはいけないような

気持ちがあった

 

辺りが少し暗くなると

怖くなってきて帰路につく

 

そのまま眺めていたら

自分もオオクワガタになって

樹液のたまりの中で

泳ぎ疲れて

底なし沼に足を引きずり込まれ

おだぶつに

なってしまうかもしれない

 

勝手に創り出した物語の

主人公になるのはイヤだった

 

再び墓地を通って

例の階段を一段一段降りてゆく

 

登るときにいた大きなナメクジが

いなくなっていて急に寂しくなる

なんだか恐ろしい場所に

いるような錯覚が

近づいてきて早足になる

 

ところが、

家に帰ると

その恐怖感は

すっかり消え去ってしまう

 

翌日再び

例の階段を登って

大木の主に会いに行く

 

小学生の頃の夏休み

来る日も来る日も

あの長い階段を

行き来していた

 

行き来する理由が

あったからだ

 

階段を登るとき

時折思い出す130段の階段

 

生きていると

見えない階段が

目の前に現れることがある

 

登るなら理由があるはず

 

その理由のために

見えない階段を登る

 

何段あるのか分からなくても