風が見えた夜に

かすかに

風が通り過ぎた

そのとき

風が見えたんだ

本当さ

横から僕に近づいて

カバンを持たない左手を

軽く握って

通り過ぎて行ったのさ

不思議なんだ

風って人間の形を

しているんだ

車に乗り込んだ後も

僕の左手には

通り過ぎたはずの

風の感触が残っているみたいだ

それが消えたりしないように

ハンドルは右手だけで

握ることにしたのさ

左手には涼しげな

風の綿菓子、

握り締めたんだ

そう、風が見えた夜に、ね。