One day~ある穏やかな場所で~

One day

それはありふれた

ある穏やかな場所

 

恋人たちが触れる

手と手の居場所に

似つかわしい風景

 

川岸に咲き並ぶ

黄色い花

 

川のせせらぎは

ほどよく小魚たちと

戯れている

 

舗装された小径添いには

土産物屋が賑わっている

 

なだらかな低い山々が

山肌に温泉を流しながら

あくびをしている

 

白い土壁で出来た

イビザいう名の

小さなスペイン料理店の

煙突から

パンを焼く香りが

漂い始めた

 

穏やかさを探していた

ふたりは

場違いなエスニックに

少しためらいながら

薄暗い、雰囲気のある

その店に入った

 

なのにどうしてか、

迷わずに

パエリアと

口をそろえて注文していた

 

何よりもオリーブオイルの

香りが嬉しかった

 

店を出たすぐ横に

小さなパン工房があった

 

これといって特徴のない

焼きたてというだけのパンを

ほおばりながら

再び舗装された小径を歩いた

 

触れあう手には

オリーブの香りが

残されていた

 

オリーブの香りに

包み込まれた

ふたりの影が

大きくなったり

小さくなったりして

 

穏やかな小径を

別の世界へ

変えていった