『詩的神話』 第4章 〜 回帰へ 〜
幻聴は幻聴ではなかった。
フィリアを示す右の翼、
ストルゲーを内蔵する左の翼、
そして、エロースの誤解を解いた
カタリスのくちばしを光らせて、
かつて作り出した青銅のオアシスを
目指し、飛び立った
そして、
野性ワシは、デビエスの仮面がゆれる
オアシスへ帰着した
「このくちばしと、この翼で、
邪悪の呪いを 粉々にしてくれよう」
カタルシスの一直線が、
デビエスを捕獲した
〈 デビエスの仮面がひび割れた 〉
仮面の裂創は呪いの終焉を示唆した
しかしその下に、
動脈の拍動を失わない正体が
まだ残されていた
ああ、なんということだろう・・・
それは
偽のメシア、すなわち
野性ワシ自身の投影像であった。
「デビルは存在し得ず。ただ心の内にある、
善の濃淡を照らすアガペーの光を。」
そうであったのか。
「己の心の闇に寄生する
不浄な、
何と不浄な、
己であったことよ」
気づかぬ己のうちに占める
汚れ多き不貞の魂を洗い清めることこそ、
デビエスの呪いを解く法であることに
ようやく、たどり着いたのだ
ワシは、真のメシアへと回帰した。
〈もう二度と姿を変えることはできない〉
そう決意して、
祈りの木陰へ急いだ。
土に埋もれた、ベノースを抱き上げて、
メシアは、自分の心臓の拍動を聞かせた。
「私に真実の愛が宿るなら、
私の鼓動をもって、蘇るのだ」
・・・加速化する心臓の拍動・・・
アガペーの確かなる所在に
ベノースは、目覚めた
呪いは解かれたのだ。
メシアは、デビエスの呪いを解く鍵が
己の善の濃淡にあったことを、
ベノースに告白した
許しの光が
アフロディーテの預言書から溢れ、
現世は、アガペーで満たされた
ふたりは、祈りの木陰を出て、
太陽に手をかざした
重層化する過去と現在
勇敢なる野性ワシに内在する
偽から真への懺悔
そして、
アガペーの導きに隠された真相
ベノースの本来は、
アフロディーテ自身ではなかったか