アストライアの天秤
天秤にのる重さの本質を見極める困難。左に
魂を、右にも魂をそっと下ろし、等価値でな
いことを見定めるのが天秤の役割というのな
ら、そもそも魂の善悪とは、何なのか。
もめ事をしているのは誰だ。良いのか悪いの
か、アストライアが決めてくれる。アストラ
イアの天秤で、善良な魂は持ち上がり、悪い
魂は瞬く間に下がっていく。アストライアの
天秤だけが真実を語る神聖を守っているに違
いない。
憎み合う魂を天秤にかけると、天秤は回転し
始め、天高く上り詰めて星座に姿を変えた。
天秤を手放さなかったアストライアも乙女の
姿のまま星座になった。憎しみ合う魂は天秤
では測れないと、暗闇にくれる地上の我々を
嘆くほどに、輝く。
てんびん座を慰めてくれたのはビーナスだけ
だった。美しく煌きながら、決しておまえは
優柔不断なんかではない。争いごとが嫌いな
だけだろう。おまえは善悪をみきわめて秩序
を守ろうとした。憎しみ合う魂には善も悪も
ない。星座になって泣いてはいけない。星座
になって、ピカピカと地上の民に、その天秤
を見せておやりなさい。おまえが泣くと、雲
がかかって夜空が見えない。善悪は忘れ去ら
れる。おまえが笑っていれば、きっと地上の
民は、おまえに気づく。おまえに気づけば、
善と悪の区別に出会う。時折現れる流星をう
まくかわして、天秤の形で善悪を照らしてや
ればよい。