ドール
まだ、ほの暗さが残る早朝
凍てついたコンクリートを蹴りながら
うつむき加減に駅へと向かう
冷えた手が自動改札の小さな孔に
紙切れ一枚押込めるのに苦労している
呼吸のたびに白い息を大きく噴射して
電車が来るのを待つ
車内は重ったるい空気に包まれて
まわりを見渡しても
出会う視線が存在しない
隣りの座席者は窓にもたれて腕を組み
あり程なノイズ音を響かせている
ずっしりと漂う温度感の中に
廃棄寸前のマネキン人形の群れが
首を垂れ、固まっている
停車した駅でドアが開くと
寒い空気と引き換えに
マネキン人形が往来する
わずかな時間の経過で
再びあの温度感覚が
人形の顔を舐め始め
目的の駅まで運び続ける
電車を降りたマネキン人形たちは
凍てついたコンクリートを蹴りながら
うつむき加減に歩いてゆく