ヒロイン

つま先の美しさが

空間を引き締めて

雨音がうるさいのに

ホールの床が

ピカピカに乾いている

 

一つとして曇りのない

ルージュの下に隠された

語るに尽くせない

これまでの生きざま

 

打ち消して

何事もなかったように

想わせる

ハッピーパフュームだけが

周りを包んでいる

 

ひと立ち回り

失笑をほのめかせるだけで

何かが変わっていく

 

段取りの悪い

ホールの黒服が

グラスを渡し

通りすがりの蝶蝶が

花束を投げつける

 

スポットで幸福感が

華やいでいる

 

そんなものなのか

 

名前も知らないヒロイン

名前もいらないヒロイン

 

美しさ、だけが在る

 

それでいいなんて

 

何一つ曇りのない

ルージュの下に隠された

妙に切なくさせる

赤いドレス

 

それが見え隠れする