フーガの技法

チェンバロの音色

メロディの反復

切迫した心情表現

フーガ特有の緊張感

旋律情報量の多さ

 

ある種のカオスが

身体を渦巻いて

死を空想した

そして生を意識した

 

あれは二十歳前夜の頃か

気品高く生命を閉じるに

ふさわしい音楽を

探している時に

たまたま出逢った音楽

 

それ以前から何度も聞いていたが

聞こえていなかったのかもしれない

初めてフーガの旋律に

耳と心を傾けた

瞬間だったのだろうか

 

近代的自我の発想から

逃走して

ポストモダン的存在へと

身動きできないでいる自我に

指先からアポトーシスが

起こり始めていた

 

しかし、それは

メシア的な救済に

変えてくれたようだ

 

焦燥感にとらわれた

悟性の矛盾が

一枚一枚

多重の旋律で

剥がされてゆき

ふとした瞬間に

赤裸々に目覚めた

子どものように

癒やされていた

 

アイデンティティが

身体の中を

主旋律として

突き抜けていった

 

魂の再生を授かり

生きていく光が

舞い込んできた

 

(No. 1500)

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♪J.S.バッハ:フーガの技法 BWV 1080 / トン・コープマン(チェンバロ),ティニ・マトー(チェンバロ) 1993年