あの頃に触れないで欲しいだけ
かあさん、
「あの子、昔は人を傷つけるような
ヤンキーだったけど、今頑張ってるらしい」
なんて話
聞かせないでください
かあさん、
微笑ましくて
人を傷つけることなく突っ張っている
筋の通ったヤンキーはいいんです
だけど、
人を傷つけるようなことをしていた、
元ヤンキーは
同時代に生きた者にとっては
いつまでも許せないヤンキーなんです
時間がたって
大人になったから
本人や身内の人は、
元ヤンと言って、かばうでしょう
今はちゃんとしているからと
ところが、写真に残された姿は
消すことはできないでしょ。
そこに映っている姿がその人の真実を
ひとりでに語り始めるのです。
微笑ましく思えたらいい。
でも、あまりにもの、はみ出し者がうつっていたら
やっぱり、そんな人でしかないものです。
アインシュタインが言っていましたよ
「人間形成は、18歳までに出会った人達の総体である」
みたいなことをね。。
かあさん、
当時、迷惑を被った周りの者から見れば
いつまでたってもヤンキーは
ヤンキーなんです
彼らから一貫性のない言い訳は
聞きたくも、ないのです
トイレで小便しているときに
後ろから回し蹴りをされたり
廊下を通る度に威嚇されたり
たばこの煙を吹きかけられたり
突然、何の脈絡もなく
後ろから頭をはたかれたり
いちいち言わなかったけれど、
つばを吐かれたこともあるんですよ
数えていたらきりがないくらい・・・
同じ部活の同級生が
集団リンチに遭っている現場に通りかかって、
何度、止めに入ったことか・・・
どれもこれも、
あれから40年近くたった今でさえ
よみがえってしまう悪夢です
僕は生徒会の役員でしたからね
見て見ぬ振りはできなかったんです
かあさん、
僕は自分が、野良犬とか、
何かそういうモノなんだろうか、って
真剣に悩みましたよ
人間扱いされている感じがなかったんです
憂さ晴らしに利用されている小動物みたいな
感覚だったのかもしれません
だから、今、ペットを飼いたいと
思わないのかもしれません
中学生当時の少年の心の傷は
残念ながら、
なかなか消え去ってくれないんです
謝ってもらったことなど、
一度もありませんよ
教室に警察まで出動してきましたよ
でも、中学卒業して、
ハイ終わりですよ・・・
いい思い出にされては、
僕たちは浮かばれないですよね
中学時代の同窓会なんて、
僕にとっては、ありえないことです
かあさん、
高校の時だって
嫌な思いをしていましたよ
苦学生でも何でもないのに
夜学に通う彼ら
夜間の時間帯になると、
でかいバイクに乗ってきて
大きなエンジン音で
自分たちの存在感をアピールする
義務教育から解放されて
自由を勝ち得たような顔をして
相変わらずに歯車のかかった連中が
校門でたむろしていましたよ
高校では早い時間帯に、
下校することにしていました
なぜ、こんな高校に来る羽目に
なったのだろう
そう思うと、
学校をやめたくて
仕方がありませんでした
しかし、
そんな勇気もない自分が、
ことさら惨めでした
かあさん、
大げさかもしれませんが
僕個人にとっては震災以上の何かですよ
僕の人生が
狂わされそうになっていたんですよ
いくら努力しても、
潰されてしまう経験を味わったんですよ
僕の心の生死に触れる出来事の連続が
日常でしたから。
傷つけられた友達は今、
どうしているのでしょうね
僕は心の傷口を閉じるだけでも、
15歳から20歳まで、
5年は費やしましたよ
今だから言えることですが、
苦しくて、、苦しくて、、
やりきれなくて、、
・・・・・・・と、
一度だけ考えたことがあります
僕は神様ではなく、普通の人間です。
それでも、
彼らの許しを望むべきなのでしょうか
“To error is human, to forgive divine.”
つらいけれど、過去は変えられないから
前を向いて歩いています
でも時々、
夢でうなされることがあるんです
僕は小さい人間ですね
だから、かあさん、
人を傷つけるような元ヤンだったけど
あの子、今頑張ってる、なんて話
聞かせないでください
いたぶられた僕の心は
まだ、解決できていないんです
(きっと仲間たちの心も)
だから、
そんな人達の今がどうかなんて
小耳に挟むこと自体
いくら、かあさんでも、許せないんです
かあさん。
お願いですから、
そういう人達の話は
僕の前で、二度としないでください
僕の心が救われる可能性が
あるとするなら
そういう人達がいたことの記憶を
遠くへ追いやり
楽しかったことだけを
思い出せるように
できるようにすることです
凡夫な人間でも、
ひたむきに自分と向き合って
生きてきたのですから
壊され、傷つけられた分、
これから幸せにやっていきたいのです
だから、かあさん、
弱い人間だと思わないでください
もっともっと強くなってみせますから。