名探偵

医者は

名探偵でなければならない

 

特に子供に関わる小児科医は

観察力がものをいう

 

待合室から聞こえる

泣き声のトーンの高さ

咳のイメージ

ちゃんと耳に入っている

 

診察に入ってきたと同時に

雰囲気

親子関係

病気の重症度

青写真が出来上がっている

 

それを診察で確かめる

 

最初の印象が間違っていないか

矛盾点を一つ一つ探し出す

 

子供は自分の病状を

言葉で伝えることができないから

すべて、こちらの

観察力にかかっている

 

診察する前に

笑い話をしたり

身に付けている服の

デザインをもとに話をしたり

行動の仕方から

目線の合わせ方、

靴の汚れ加減まで

全部チェックしている

 

親に対しても、そうである

 

親子を前にして

少し長めに話をしていくうちに

親子関係を推測する

 

時には歌を歌ってあげたり

お母さんの好きなアイドルの話をしたり

一見医療に関係のない話をして

いろいろなことをチェックしている

 

それはあらかじめ

ルーチンで

項目を決めているのではなくて

その場その場での判断だ

即興的に話題は変わっていく

 

以前、医療面接の専門家に

僕の診察場面を見学していただいて

「先生の診察風景は、独特で

いわば、水嶋ワールドですね。

多角的にいろいろな医療のための

情報を集めて

一つの病態が浮かび上がってくるようで

不思議に面白い。

出来損ないの探偵のふりをした、

名探偵を思い出しますよ」と

言われたことがある

 

僕の診察には

一生涯積み上げてきた

あらゆる様々な経験を

すべてつぎ込んだ

付加価値があると思っている

 

医学の勉強だけでは

教科書をなぞるような診察しか

出来ない

 

なぜなら人間って

薬を飲めば、病気が治る

そんな単純な仕組みでは

出来ていないからだ

 

ひとり、ひとり、違う

 

社会的背景を含めて病気を診る

 

親身に本当のことを語り

患者と医者の両方が納得のいく

状態を作って、

治療関係を成り立たせると

子供達は、笑顔を取り戻す

 

その、笑顔を見たいから

小児科医をしている

 

他に何か理由があるだろうか