夢壺

ぶら下げて歩いている。心のままに、夢壺が

ある。入っているだか、入っていないだか。

わからずに、ぶら下げて歩いている。

 

よろけた拍子に夢壺のふたが開いた。中を覗

いてみると、夢見つつ、夢見つつ、あわただ

しげに羽衣を振り回す底なしの風。吹いてい

るだか、吹いていないだか、髪のなびきにほ

ころんだ表情が、さらりと幸を運んでくる。

 

ぶらりぶら下げて歩いている。夢壺がゆれて

いる。よろけた拍子に夢壺が開いた。中を覗

いていると、小さな花束が香っている。不思

議に思って手に取ってみると、花びらに詩編

がひとつ手をかざして待っていた。

 

いつか来た場所

いつか見た人

きっと、たどり着く場所

きっと出会う人

大吉でもなく

中吉でもなく

末吉でもなく

あなたは自分のことを

誇らしげに想っている

 

夢壺を拾い上げて、またぶらぶらと、する。

 

 

 

( 詩と思想 土曜美術出版販売 2017.01. )