対話
あしぐせの悪い僕は特急列車の中
前列にはだれも座っていない
足を組み替えてシートを蹴ると
窓ぎわに置いた缶コーヒーが
こぼれそうになった
宮津から反対方向に走り出す列車
客室には他に誰もいなくなっていた
遠ざかる景色はこんなにも眺めやすい
本当は僕が遠ざかっているのだ
窓ガラスに映し出されたわたくしを
見ている僕は、
こんな人が近くにいたら
きっとメンドクサイだろうと考えた
二十四時間張り込んで
どんな日常を渡り歩いているのか
観察してみたいと思った
気に入るだろうか
嫌気がさして身震いするのだろうか
心から言葉を発しているのだろうか
一人っきり
車窓を眺めながら
僕はわたくしとの対話を始めていた